国道九号線、丹波路を疲れて走る 日を超えた「夜」 …と言えば 「トバリが落ちる」とか、言い換えても 何が変わるのでもないだろう すでに日は暮れて 久しい 深夜の一時を越えた 自分はと言えば 仕事で「暗いモノ」を見て帰る、途中 いやな疲労を溜め込んだまま 幅の広い、無人の国道九号線 山陰街道の闇のなかを ひた走る 交通事故を起こしたひとと家族に会ってきた しかし仕事だからと言い聞かせる 交通事故は陰気な気分では済まない 相手に何をしてやれるかが問題だ いつも自分だけにはそう言い聞かせて 仕事には慣れてる 慣れれば、暗闇も怖くはないように しかしこの暗闇、国道九号線 京都の五条通りから発し、大枝から山中に 亀岡、口丹波(クチタンバ)に入る この西山に向かう暗闇は 「おどろしい」 暴走車がとなりを走り抜け、警告システムが 速度を感知、表示装置がまたたく 「警告! 速度を落とせ」 同じ目に救急車も遭っている この先の救急救命をやっている病院に向かうのだろう 健康保険は使えるか、自由診療か? 重症なら大変だ 国道九号線、丹波口(タンバグチ)、大枝(オオエ)、沓掛、大原野 京都を創始した桓武の、縁者たちの皇陵に囲まれ 長岡京の後背地にして 京都の始まりを物語る 足利尊氏、明智光秀、彼らに限らない ここは裏切りの路 どこもかしこも戦乱の兵が駆け抜けていった 道 しかし無音で 無音だからこそ『沈黙』は大声で語り始める このハンドルを小刻みに操作して、アクセルに 細心の操作を加える五体にも うめき声が聞こえ始める 仕方がない それは一介の保険屋には重過ぎる 現実の歴史だ 日の明けた、『今夜』は コンビニに寄っていこう 芸大の学生達が昼間のように押しかけている 少しはまばゆく、明るく 沈黙のない場所 |
2003H13.5月作、 「詩の雑誌 ミッドナイト・プレス」No.22 2003年冬号掲載。 |
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