詩のコーナー

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秋に踊る


必ずしも火は
燃えながら光るものではない
すべてが終わるいまも
あなたよ
これ見よがし、夏の原色の喩えは砕かれ
燃え絶えて
この秋の光景のなかにくすぼり
やがては光を閉じて行く

光り、燃え立つ火とは
疑いも無く、終わり行くもの
赤方(セキホウ)に遷移して
映える秋の陽射しは
夏の残照にほかならず
紅葉と枯葉が夕日に色の温度を上げて行く
秋、そのとき
夏の生命(イノチ)がいま一度高鳴り
その実りに人々や鳥たちが舞い群れる
秋は果実、しかし
無口なる巻き貝の卵子
その結実と結末


あなた
夏の嵐の夜をいまも覚えているだろうか
荒れて、高まる鼓動のうちに
肉体は一夜(ヒトヨ)の出来事を離れて
時間の枠組みも知らず、なだれ
二人の抱擁を二人の世界として
秋の自然のなかにまた現れる
その姿

茜色の夕暮れの空のように
我が身の視線をいまも虜にする
行く雲に似て炎の色に染まる
あなたの姿
肢体を照らし出す
心象として、再び
肌を火(ホ)照らし、燃え立つ
恋に羞恥のときは既に遠く、喪失の恐怖にも疲れ
零れ落ちる涙に戯れて
もの憂い眠りの果てに塞ぎ込んだ思考は
効(カイ)の無いものを思惟する
あなたにしても、そうか?
そして私は


あたかも生涯は冬へと向かい
ただ夏は少しは二人を暖めただけなのだろうか
一般に葉々を捲(メ)くり返して吹く風は
常に大地を空へと冷却していくものらしく
一抹の幸福は枯れて、人生に降り積もる

そうして、窓辺に寄れば
いままたこの秋の大空のした
熟する大地のうえに堅く繋がれて
想いの霊だけが
踊り続けている




詩集「夜桜は散り落ちて」に所収。
冨澤守治・パーソナル・ウェブサイト